結論:贈与で相続税はいくら減るのか

「生前贈与は相続対策になる」とよく言われますが、やり方とタイミングによって、効果は数十万円から数百万円まで大きく変わります。ほとんど効果が出ないこともあります。まずは結論から、具体的な数字でご覧ください。

この記事では、次のご家庭を例に説明していきます。

被相続人 父(財産1億円) 長男 長女 相続人は2人/基礎控除は4,200万円
図1:前提となるご家庭。父の財産1億円を、長男・長女の2人が相続するケースです。

何も対策をしなければ、相続税の総額は770万円です。ここから、贈与の方法別に相続税がどう変わるかを比べます。

対策なし 770万円 暦年贈与10年 641万円 精算課税 110万円枠10年 440万円 精算課税 2,500万円一括 770万円 ↑ 対策なしと同額。節税にならない
図2:贈与の方法別に見た相続税の総額。同じ「生前贈与」でも、方法によって結果はまったく違います。
いちばん注目していただきたいのはいちばん下です。相続時精算課税で2,500万円を贈与しても、相続税は1円も減りません。その理由を、これから順に説明します。

暦年課税と「7年ルール」——早く始めるほど効く

暦年課税は、贈与税の原則的な計算方法です。1年間(1月1日〜12月31日)に受け取った財産の合計から基礎控除110万円を差し引いた額に課税されます。年110万円以内なら贈与税はかからず、申告も原則不要です。

ただし、この方法には大きな落とし穴があります。亡くなる前の一定期間にした贈与は、相続財産に戻して相続税を計算し直すというルール(生前贈与加算)です。この期間が、従来の3年から7年へ順次延長されています。

← 過去 相続開始 節税になる 7年より前 一部戻る 3年超〜7年 全部戻る 3年以内
図3:生前贈与加算のしくみ。相続が近づいてからの贈与は、相続財産に戻されてしまいます。
※「3年超〜7年」の部分は、受け取った人ごとに合計100万円を差し引いて戻します。

つまり暦年贈与は「早く始めた分だけ」効くということです。同じ年110万円ずつを2人のお子さまに贈っても、続けた年数で結果はこれだけ変わります。

贈与を続けた年数贈与した総額相続財産に
戻る額
相続税の総額減った額
対策なし770万円
5年1,100万円900万円740万円△30万円
10年2,200万円1,340万円641万円△129万円
15年3,300万円1,340万円476万円△294万円
20年4,400万円1,340万円311万円△459万円

表の「相続財産に戻る額」が10年・15年・20年で同じ1,340万円になっているのは、戻されるのは直近7年分だけだからです。10年間贈与した場合の内訳は次のとおりです。

贈与した時期贈与額(2人分)控除戻る額
相続開始前1〜3年(3年分)660万円660万円
相続開始前4〜7年(4年分)880万円△200万円
(100万円×2人)
680万円
相続開始前8〜10年(3年分)660万円0円
合計2,200万円△200万円1,340万円
ここで多くの方が疑問に思われるのが、「年110万円以内なら贈与税はかからないのに、なぜ全額が相続財産に戻るのか」という点です。
じつは相続財産に戻すのは、110万円の基礎控除を差し引く「前」の贈与額そのものです。贈与税がかからなかったことと、相続財産に加算されないことは、まったく別の話なのです。
また、4〜7年の部分から差し引く100万円は、毎年の基礎控除110万円とは別の控除です。令和5年度の改正で設けられたもので、4年分の合計から一度だけ差し引きます(受け取った人ごと)。数字が似ていますが、別のものとお考えください。

つまり、8年目より前に贈った660万円と、4〜7年目に適用される控除200万円を合わせた860万円分だけが、相続財産から確実に外れたということになります。15年・20年と続けても「直近7年分が戻る」点は変わらないため、戻る額は1,340万円のまま増えません。続けた年数が長いほど、外れる財産が積み上がっていきます。

0 400万 800万 770 対策なし 740 5年 641 10年 476 15年 311 20年
図4:相続税の総額(万円)。年110万円×お子さま2人を継続した場合。
5年では30万円しか減りませんが、20年続ければ459万円減ります。暦年贈与は「時間」が効く対策です。
5年で30万円、20年で459万円。これが暦年贈与の本質です。「そろそろ相続対策を」と思ってから始めたのでは、効果はほとんど出ません。

相続時精算課税は「110万円だけ」が節税になる

相続時精算課税は、原則60歳以上の親・祖父母から18歳以上の子・孫へ贈与する場合に選べる制度です。累計2,500万円まで贈与税がかからないため、「まとまった財産を非課税で渡せる制度」と誤解されがちですが、相続税の節税という点では、そうではありません。

この制度の名前のとおり、贈与した財産は、相続のときに相続財産へ「精算」(加算)されます。つまり、2,500万円を贈与しても、相続税の計算では贈与しなかったのと同じ扱いになります。

特別控除 2,500万円 贈与時は税金なし 相続財産に戻る → 節税にならない 基礎控除 年110万円 2024年に新設 戻らない → 節税になる 相続時精算課税で節税になるのは、右側の年110万円だけ
図5:相続時精算課税の2つの枠。節税の効果があるのは、2024年に新設された「年110万円の基礎控除」の部分だけです。

言いかえると、相続時精算課税の2,500万円の枠は「節税」ではなく「納税の先送り」です。値上がりが見込まれる財産を早めに移す、収益を生む不動産を先に渡して家賃収入を移す、といった目的には有効ですが、それ自体で相続税が減るわけではありません。

一方で、2024年に新設された年110万円の基礎控除は、相続財産に加算されません。暦年贈与の「7年ルール」のような巻き戻しもないため、年数が短くても確実に効きます。先ほどの例で10年間使うと、暦年贈与(641万円)よりも有利な440万円になります。

10年間の贈与暦年課税
110万円×2人
相続時精算課税
基礎控除110万円×2人
贈与した総額2,200万円2,200万円
相続財産に戻る額1,340万円0円
課税価格9,140万円7,800万円
相続税の総額641万円440万円

どちらを選べばよいか

2024年の改正で、選び方の考え方は次のように整理できます。

こんな場合向いている方法理由
ご高齢で、対策の時間が限られている相続時精算課税
(年110万円)
7年ルールの巻き戻しがなく、短期間でも確実に効く
まだ十分に時間がある(60代前半など)暦年課税長く続けるほど効果が大きく、後から精算課税へ変更もできる
お孫さんに贈りたい暦年課税相続人でないお孫さんへの贈与は、原則として生前贈与加算の対象外
年110万円を超えて渡したい目的による精算課税なら贈与税はかからないが、相続税は減らない
相続時精算課税は、一度選ぶと同じ贈与者からの贈与を暦年課税に戻せません。「とりあえず選ぶ」ことができない制度ですので、実行前に必ず試算をしてください。

目的別の非課税特例・注意点・まとめ

使いみちを限った贈与には、次のような非課税の特例もあります(いずれも要件・適用期限があります)。

  • 住宅取得等資金の贈与……マイホームの取得・新築・増改築の資金を、一定額まで非課税で贈与できます。
  • 結婚・子育て資金の一括贈与……1,000万円までを非課税で一括贈与できます。
  • 配偶者への居住用不動産の贈与(おしどり贈与)……婚姻期間20年以上の夫婦間で、最高2,000万円まで控除できます。

なお、教育資金の一括贈与の非課税措置は、令和8年度税制改正大綱により延長せずに終了することとされています。ご検討中の方は取扱いをご確認ください。

最後に、実行するときの注意点です。

  • 「名義預金」と見られないように……贈与契約書を作り、振込の記録を残し、もらった人自身が管理する口座に入れることが大切です。形だけの贈与は認められません。
  • 渡しすぎに注意……ご自身の生活資金・医療費・介護費を確保したうえで行ってください。
  • 7年への延長には経過措置があります……2024年1月1日以降の贈与が対象で、加算期間は段階的に延びていきます。

ここまで見てきたとおり、生前贈与は「何を」「誰に」「いつから」渡すかで、効果が数十万円から数百万円まで変わります。そして、いちばん効くのは早く始めることです。当事務所では、ご家族の状況をふまえた相続税の試算と、贈与の進め方のご提案を行っています。「うちの場合はどちらが有利か」を、具体的な数字でご確認ください。

※本記事は一般的な解説であり、2026年7月時点の情報に基づいています。記載の税額は前提を単純化した計算例です(配偶者の税額軽減や各種特例は考慮していません)。実際の取扱いは個別の事情や法令・税制の改正により異なります。具体的なご相談は当事務所までお問い合わせください。