3つの事務所で、答えが違いました

ご自宅の土地がとても広く、しかもかなりの傾斜がついている——そんなお宅にお住まいの方からのご相談でした。「うちは相続税がかかるのだろうか」と心配になり、まずある税理士法人の無料相談に行かれたそうです。

そこで言われたのが「評価額はだいたい6,000万円くらいでしょう」。相続税は800万円から1,000万円ほどになる、という見立てでした。

念のためもう1か所、別の税理士事務所の無料相談にも行かれました。今度は「5,000万円くらい」。1,000万円も違います。

なぜこんなに差が出るのか。疑問に思われて、3か所目として当事務所にお越しになりました。

お話をうかがい、その場で概算をお伝えしたところ——500万円くらいではないでしょうか。ご相談者は大変驚いていらっしゃいました。相続税についても、私の見立ては「限りなくゼロに近いのではないか」というものでした。

先に2か所で聞いてきた金額と、あまりにかけ離れています。「どちらが正しいのか」と思われたことでしょう。

先に結論を申し上げます。どの事務所も間違ってはいません。無料相談は、その場で確認できる情報の範囲でお答えするものだからです。違いを生んだのは、能力の差ではなく「その土地の何を確認したか」の差です。

なぜ税理士によって評価額が変わるのか

相続税を計算するとき、土地の値段は国税庁が定めた方法で計算します。市街地であれば「路線価方式」といって、道路につけられた1平方メートルあたりの価格(路線価)に面積をかけるのが出発点です。

ここまでは誰が計算しても同じです。差が生まれるのは、そのあとの「補正」の段階です。

土地には一つひとつ個性があります。細長い、いびつな形をしている、道路より低い、崖がある、広すぎて分譲しないと使えない——こうした事情があると、その土地は使いにくく、売るときも安くなります。だから相続税の計算でも、実情に合わせて評価を下げてよいことになっています。

ところが、この補正が使えるかどうかは土地を実際に見なければ分かりません。固定資産税の課税明細書や、地図アプリの航空写真だけでは判断できないのです。

無料相談は限られた時間の中で行うものですから、税理士はその場で確認できる情報をもとに答えます。情報が少なければ、安全側の(=高めの)見立てになります。これは誠実な対応であって、手抜きではありません。

むしろ逆のほうが問題です。確認していないのに「これだけ安くなります」と言い切ってしまえば、あとで話が違うということになりかねません。控えめに答えるのは、税理士としてまっとうな姿勢です。

ですから、無料相談で言われた金額は「上限に近い数字」だと考えてください。そこから下がる余地があるかどうかは、土地を見て初めて分かります。今回のご相談者が3か所を回られたことで、その余地の存在に気づけたわけです。

土地の評価は「路線価×面積」では終わりません

実際の計算は、次のような流れになります。

① 路線価 × 面積 ここまでは誰が計算しても同じ ② 土地の個性に応じた補正 形・傾斜・高低差・広さ・道路のつき方など ここで大きな差がつきます ③ 小規模宅地等の特例 自宅の土地は330㎡まで80%減 要件を満たす場合
図1:土地の評価の流れ。②と③をどこまで検討できるかで、結論が大きく変わります。

②の補正には、たとえば次のようなものがあります。

土地の事情評価への影響
間口が狭い/細長い使いにくいため減額
いびつな形をしている不整形地として減額
崖があるがけ地補正で減額
道路との高低差が大きい利用価値の低下として減額
面積が特に広い地積規模の大きな宅地として減額
道路に接していない無道路地として大幅に減額
墓地や線路に隣接している事情により減額

これらは組み合わせて使えます。いくつも当てはまる土地では、評価額が半分以下になることも珍しくありません。逆に、どれも検討されないまま計算すると、本来より高い金額が出てしまいます。

そして③の小規模宅地等の特例も見逃せません。亡くなった方のご自宅の土地は、要件を満たせば330㎡までの評価額を80%減らせます。配偶者が引き継ぐ場合は無条件、同居していたお子さんなら「申告期限まで住み続け、所有し続ける」ことが条件です。②で下がった金額に、さらに8割引が乗るわけですから、影響は非常に大きくなります。

「うちは土地しかないから相続税が心配」という方は多いのですが、②と③を両方きちんと使うと、思っていたよりずっと少なくなることがよくあります。

傾斜地と広い土地は、大きく下がることがあります

今回のご相談で決め手になったのが、この2つでした。

傾斜についてです。無料相談の場で、私は地図アプリでその土地を見ながら「このあたりは坂になっていませんか」「庭に段差はありますか」とうかがいました。ご相談者のお話から、かなりの傾斜がありそうだと分かりました。

そこで、その場で国土地理院の地図で標高の変化を確認しました。無料で誰でも使える地図ですが、土地の高低差が色分けで分かります。案の定、敷地の中でかなりの高低差がありました。

ここが分かれ目でした。地図アプリの航空写真では、上から見るだけなので高低差はほとんど分かりません。木や屋根に隠れてしまいます。傾斜に気づくには、標高が分かる地図を見るか、ご本人に直接うかがうしかないのです。

傾斜のある土地は、そのままでは家を建てられません。平らにするための造成費がかかりますし、崖の部分は使えません。そのぶん評価を下げられます。

もう一つが面積です。一定以上に広い土地は、そのままでは買い手がつきにくく、分譲するには道路をつくる必要があります。そこで「地積規模の大きな宅地の評価」という取扱いがあり、茨城県のような地域ではおおむね1,000㎡以上で対象になる可能性があります(用途地域などの要件があります)。

広い土地には、もう一つ見落とされやすい点があります。敷地の中に、宅地として使えていない部分が含まれていることです。手つかずの斜面、雑木林のようになっている一角、昔の畑の名残——こうした部分は、宅地とは別の評価になることがあります。航空写真では庭の一部に見えても、実際に歩くと様子が違う、ということが起こります。

この2つ——「傾斜地の評価」と「地積規模の大きな宅地の評価」——を織り込んだ結果、私がその場でお伝えした概算が500万円くらいでした。時間にして20分ほどのやりとりです。特別なことをしたわけではなく、土地の様子をうかがい、無料の地図で裏を取っただけです。

念のため申し添えますが、この時点ではあくまで概算です。正式にご依頼をいただいたあと、現地を歩いて測量図と照らし合わせ、役所で用途地域や道路の状況を確認しました。その結果、評価額はさらに下がりました。

結局、相続税はいくら変わったのか

数字で見ていきます。分かりやすくするため、相続人はお子さん1人、土地のほかに現預金が3,000万円あるという前提に単純化します。基礎控除は「3,000万円+600万円×1人」で3,600万円です。

他の事務所A 6,000万円 他の事務所B 5,000万円 当事務所 500万円 同じ土地でも、見方で10倍以上の差
図2:同じ土地に対する3つの見立て。どれも「その場で確認できた情報」に基づく誠実な回答です。
項目他の事務所Aの見立て当事務所の概算
土地の評価額6,000万円500万円
現預金3,000万円3,000万円
財産の合計9,000万円3,500万円
基礎控除3,600万円3,600万円
課税遺産総額5,400万円基礎控除以下
相続税920万円0円
他の事務所A 920万円 当事務所 0円 その差 920万円
図3:単純化した前提での比較。土地の見方だけで、納める税額がこれだけ変わります。

財産の合計が基礎控除を下回れば、相続税はかかりません。この例では3,500万円と3,600万円ですから、わずか100万円の差で課税されずに済みます。しかもこの場合は申告そのものが原則として不要です。

もう一つ、見落とされやすい点をお伝えします。相続人が何人いるかでも、結論は大きく変わります。基礎控除は「3,000万円+600万円×相続人の数」なので、人数が増えるほど枠が広がるからです。

相続人の数基礎控除この金額以下なら
1人3,600万円相続税ゼロ・申告も原則不要
2人4,200万円同上
3人4,800万円同上
4人5,400万円同上

ご相談のときは、土地のことだけでなくご家族の構成もあわせてお伝えください。相続人がお1人か3人かで、基礎控除は1,200万円変わります。

そして実際のご依頼では、現地を歩いて測量図と照らし合わせ、役所で用途地域や道路の状況を確認しました。その結果、無料相談でお伝えした概算よりもさらに評価を下げることができ、最終的に相続税はゼロで確定しました。当初「800万円から1,000万円」と言われていたご相談者にとって、これは大きな違いだったと思います。

ここで、混同しやすい点を整理しておきます。「基礎控除以下だから0円」と「特例を使った結果0円」は、扱いがまったく違います。前者は申告不要ですが、後者は申告をしないと特例そのものが認められません。小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使って0円になる場合は、必ず期限内に申告してください。「0円だから申告不要」と自己判断され、あとから本来不要だったはずの税金を課されてしまう例が実際にあります。

無料相談を上手に使うコツ

今回のご相談者は、3か所も回られました。手間はかかりましたが、結果的にはとても良いご判断だったと思います。無料相談は、遠慮なく使っていただきたい制度です。

そのうえで、より正確な答えを引き出すためのコツをお伝えします。

  • 資料を持っていく……固定資産税の課税明細書(毎年春に届くもの)があると、土地の面積と所在が一度に分かります。あれば公図・測量図・登記事項証明書も。なくても構いませんので、あるものだけお持ちください。
  • 土地の見た目を伝える……「坂の途中にある」「道路より一段高い」「庭に使っていない斜面がある」「形がいびつ」。こうした一言が、評価を大きく変えることがあります。
  • ご家族の構成を伝える……相続人が何人かで基礎控除が変わります。今回のように1人と3人では、基礎控除が1,200万円違います。
  • 財産のおおよそを伝える……正確でなくて構いません。「預金がだいたいこのくらい」で十分です。
  • 違う答えが出たら、理由を聞く……今回のように差が出たときは、「なぜそう見立てたのか」を尋ねてみてください。何を前提にしたかが分かります。

持っていくとよいものを、優先順位の高い順に整理しました。

持ち物どこにあるか分かること
固定資産税の課税明細書毎年春に市役所から届く納税通知書に同封土地の所在・面積・評価額
公図・測量図お手元の権利証の中/法務局土地の形・道路とのつき方
登記事項証明書法務局(オンラインでも取得可)正確な地番・面積・名義
おおよその預貯金額のメモ通帳など(正確でなくて構いません)相続税がかかるかの見当

ただし、何も持たずにお越しいただいて構いません。手ぶらで来られる方のほうが多いくらいです。「これがあると話が早い」という程度に考えてください。

私たちは、限られた時間の中で最大限のことをお伝えしたいと思っています。前提があやふやだったり情報が足りなかったりすると、正しい判断ができません。逆に言えば、材料さえいただければ、その場でかなりのところまでお答えできます。

税理士事務所に問い合わせるのは、不安かもしれません。怖いと感じる方もいらっしゃいます。それでも一歩踏み出していただきたいと思います。今回のように、それだけで結論が変わることがあるからです。

まとめ

今回の内容を整理します。

  • 土地の評価額は、誰が計算しても同じではありません。路線価×面積のあとの「補正」で大きく変わります。
  • 形・傾斜・高低差・広さなどの事情は、現地を見ないと分かりません。無料相談での見立てが高めに出るのは、そのためです。
  • 傾斜地や特に広い土地は、大きく評価を下げられる可能性があります。
  • 今回の例では、見立ての違いで相続税が920万円と0円。実際にも最終的にゼロで確定しました。
  • 無料相談は遠慮なく使ってください。資料と土地の様子を伝えるほど、答えは正確になります。

「うちの土地は広いだけで価値はないと思う」「坂の途中だから安いはず」——そうした感覚は、実は当たっていることが多いです。しかしそれを税務署に認めてもらうには、根拠を示す必要があります。測量図を読み、現地の高低差を測り、役所で規制を確認し、通達のどの規定に当てはまるのかを書面で示す。そこが私たちの仕事です。

逆に言えば、そこまでやらなければ評価は下がりません。今回のご相談者が最初の1か所で納得してしまっていたら、900万円を超える相続税を納めていた可能性があります。「なんだかおかしい」と感じて足を運ばれたことが、結果を変えました。

当事務所では、初回のご相談(約60分)を無料でお受けしています。相続税がかかるかどうかの見立てだけでも構いません。土地のことでご不安があれば、お気軽にお声がけください。

※本記事は、実際にお受けしたご相談をもとに、ご依頼者が特定されないよう内容を変更したうえで紹介しています。記載の評価額・税額は前提を単純化した計算例であり、実際の評価は土地ごとの事情や法令・通達により異なります。各種の補正や特例の適用には個別の要件があります。本記事は2026年7月時点の情報に基づいています。具体的なご相談は当事務所までお問い合わせください。